シンガポールで働きたいと考えたとき、避けて通れないのが就労ビザ「EP(Employment Pass)」の取得です。
2023年9月から導入されたポイント制「COMPASS(Complementarity Assessment Framework)」は、2026年現在、完全に定着しました。EPの審査は2段階制で、Stage 1の最低給与基準をクリアしたうえで、Stage 2のCOMPASSで40ポイント以上を獲得する必要があります。「年収さえ高ければ取れる」時代は終わり、「個人のスペック」と「企業の貢献度」の両面がシビアに評価されます。
本記事では、2026年1月以降の最新基準に基づき、COMPASSの6つの評価項目、日本人が合格するための具体的な目安、そして戦略的な攻略法を解説します。
目次
【比較】旧制度と何が変わった?COMPASS導入による3つの大きな変化

| 比較項目 | 旧制度(〜2023年8月) | 新制度:COMPASS(2023年9月〜) |
| 審査の仕組み | 年収と学歴の「足切り」方式 | 2段階制:①最低給与基準 ②6項目のポイント加点方式(40点以上で合格) |
| 審査の透明性 | 非公開(ブラックボックス) | 公開。MOMのSelf-Assessment Tool(SAT)で事前に自己診断が可能 |
| 評価の対象 | 本人のスペックが中心 | 本人(C1給与・C2学歴)+ 企業(C3多様性・C4地元雇用)の両面評価 |
| 年収基準 | 年齢ごとの一律の最低基準 | 職種・業界(セクター)別の相対評価。ベンチマークは毎年更新 |
| ボーナス加点 | なし | C5(Shortage Occupation List)+ C6(戦略的経済優先分野)で最大40点の加点が可能 |
変化①:「年収だけ」では決まらなくなった
旧制度では、政府が決めた「最低給与額」さえクリアしていれば、多くの場合ビザが許可されていました。しかし新制度では、年収はあくまで6つある評価項目のうちの一つ。たとえ高年収でも、「企業の日本人比率が多すぎる(C3)」や「現地の雇用貢献度が低い(C4)」といった企業側の理由で、合計点が40点に届かず不合格になるケースが出ています。
変化②:「職種・業界」ごとのベンチマークが毎年更新される
これまでは「30歳なら月給S$○○以上」という一律の基準でしたが、現在は「金融業界の30歳」と「製造業の30歳」では求められる合格ライン(年収)が異なります。MOMは毎年新しいセクター別ベンチマークテーブルを公表しており、2026年1月からは新基準が適用されています(EP更新は2026年7月から)。前年比で平均5%程度の上昇傾向が見られます。
変化③:学歴と「ボーナス項目」の重みが増した
旧制度でも学歴は重視されていましたが、新制度では「どの大学を出たか」がより明確に数値化されました。さらに、2026年1月からはトップ校リストと学位相当の専門資格リストが更新されています。加えて、C5(SOL:人材不足職種リスト)とC6(戦略的経済優先分野)のボーナス項目で最大40点の加点が可能になったことも大きな変化です。
MEMO 以前シンガポールに在住していた方からの「月給S$○○あれば大丈夫」というアドバイスは、現在のCOMPASS制度下では通用しません。セクター別ベンチマークは毎年更新され、2026年基準では前年より5%程度上昇しています。必ず最新のSATで確認しましょう。
COMPASS制度の基本:2段階審査と6つの評価項目

Compassの審査は主に2段階に分かれています。
Stage 1:最低給与基準(Qualifying Salary)
| セクター | 最低月給(2025年1月〜) | 45歳以上の上限目安 |
| 一般セクター(金融以外) | S$5,600 | S$10,700 |
| 金融サービスセクター | S$6,200 | S$11,800 |
この最低給与はあくまで「Stage 1の足切りライン」です。これをクリアしても、Stage 2のCOMPASSで40ポイント未満であればEPは発給されません。年齢が上がるほど求められる最低給与も上がります。
Stage 2:COMPASS(6項目・40ポイント以上で合格)
| 項目 | カテゴリ | 評価内容 | ポイント配分 |
| C1 | 給与(Salary) | 申請者の固定月給を、同セクター・同年齢帯のローカルPMET給与と比較。65%ile以上で10点、90%ile以上で20点 | 0 / 10 / 20点 |
| C2 | 学歴(Qualifications) | 学位保持で10点、MOM指定トップ校卒で20点。学位相当の専門資格(CFA、ACCA等)も対象。2026年1月にリスト更新済み | 0 / 10 / 20点 |
| C3 | 多様性(Diversity) | 企業のPMET全体における申請者の国籍割合。国籍が少数派なら加点、多数派なら減点。PMET 25人未満の企業は自動10点 | 0 / 10 / 20点 |
| C4 | 地元雇用(Support for Local Employment) | 企業が同セクター平均と比べてどれだけシンガポール人PMETを雇用しているか。PMET 25人未満は自動10点 | 0 / 10 / 20点 |
| C5 | スキルボーナス(SOL) | Shortage Occupation List(人材不足職種リスト)掲載職種に該当すれば加点。IT、金融、医療、製造等7業界の約30職種。2026年1月にリスト更新 | 0 / 10 / 20点(ボーナス) |
| C6 | 戦略的経済優先(SEP) | 政府が指定する戦略的経済優先分野での活動に該当する場合に加点 | 0 / 10 / 20点(ボーナス) |
【C1】給与ベンチマーク:2026年の目安
C1では、申請者の固定月給が同セクター・同年齢帯のシンガポール人PMET(Professional, Manager, Executive, Technician)給与と比較されます。2025年9月以降は月給S$3,300以上の全従業員がPMETとしてカウントされるようになりました。ベンチマークは毎年更新され、2026年1月から新基準が適用されています。
日本人が多い職種の10ポイント(65%)/ 20ポイント(90%)の目安
| 職種カテゴリ | 30歳前後 10pt | 30歳前後 20pt | 40歳前後 10pt | 40歳前後 20pt |
| 金融・専門サービス | S$10,500〜 | S$15,000〜 | S$14,500〜 | S$20,000〜 |
| IT・テクノロジー | S$8,500〜 | S$13,000〜 | S$13,000〜 | S$18,000〜 |
| 営業・管理職(製造・商社等) | S$6,500〜 | S$10,000〜 | S$10,000〜 | S$15,000〜 |
| サービス・ホスピタリティ | S$5,800〜 | S$8,500〜 | S$8,500〜 | S$12,000〜 |
上記はあくまで傾向値であり、MOMが公表するセクター別ベンチマークテーブルの正確な数値は年齢・セクターの組み合わせで細かく設定されています。必ずMOMのSATで正確なポイントを事前確認してください。
【C2】学歴:日本のどの大学が「トップ校」?
C2では、学位保持で10ポイント、MOM指定の「Top-tier institutions」卒であれば20ポイントが付与されます。2026年1月にリストが更新されています。
日本の大学のトップ校リスト(20ポイント)
| カテゴリ | 大学名 |
| 旧帝国大学 | 東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、名古屋大学、九州大学、北海道大学 |
| 私立トップ校 | 早稲田大学、慶應義塾大学 |
| 専門単科大学 | 東京科学大学(旧・東京工業大学) |
上記以外の4年制大学の学士号は10ポイントです。また、2026年1月からは学位相当の専門資格(Degree-equivalent professional qualifications)のリストも更新されており、CFA、ACCA、CPA、Professional Engineer等の一部資格は学位と同等にポイントが付与される可能性があります。
日本人が合格するための「合格ライン」:4つのパターン
実際に多くの日本人候補者がどのようにして40ポイントをクリアしているか、代表的なパターンを整理しました。
| パターン | 想定プロフィール | C1給与 | C2学歴 | C3多様性 | 合計 |
| ①高学歴・若手 | 旧帝大/早慶卒・20代後半・営業職 | 10pt | 20pt | 10pt | 40pt → 合格 |
| ②一般大卒・ミドル | 一般大学卒・30代・管理職・高年収 | 20pt | 10pt | 10pt | 40pt → 合格 |
| ③外資・ローカル狙い | 一般大学卒・30代・外資系勤務 | 10pt | 10pt | 20pt | 40pt → 合格 |
| ④SOLボーナス活用 | IT職・SOL掲載職種・30代 | 10pt | 10pt | 0pt | 20pt+C5 20pt=40pt → 合格 |
パターン①:高学歴・若手層(学歴で稼ぐ)
早慶・旧帝大卒であれば、C2で20ポイントを確保できるため、C1(給与)が相場並み(10点)でもC3(多様性)で10点取れれば合格ラインに到達します。学歴が20点あると、年収交渉のプレッシャーが大幅に下がるのが大きなメリットです。
パターン②:一般大卒・ミドル層(給与で稼ぐ)
一般的な4年制大学卒(C2:10点)の場合、C1(給与)でセクター・年齢帯の90%ile以上の高年収を提示してもらい20ポイントを確保する必要があります。30代後半〜40代で管理職ポジションに就くケースに多いパターンです。
パターン③:外資・ローカル企業で多様性ポイントを最大化
日系企業ではなく、日本人が極めて少ない欧米外資やローカル企業を狙うことで、C3(多様性)で20ポイントを獲得するパターンです。C1・C2がそれぞれ10点でも合格できるため、「高学歴でも高年収でもないが、英語力がある」候補者にとって現実的なルートです。
パターン④:SOL(人材不足職種リスト)のボーナスを活用
2026年1月にSOLが更新され、IT、金融、医療、製造等7業界の約30職種が掲載されています。該当職種であればC5で最大20ポイントのボーナスが付与されるため、基礎4項目の点数が足りなくても合格の可能性が広がります。特にIT職種ではSOL掲載+高年収で5年間のEPが発給されるケースもあります。
COMPASS時代に転職を成功させる4つのステップ
| # | ステップ | 具体的なアクション |
| 1 | MOMのSATで自己診断 | MOM公式のSelf-Assessment Tool(SAT)に自分の情報を入力し、現時点での「持ち点」を把握。2026年1月更新済みのSATを使用すること |
| 2 | 年齢に対する市場価値を正しく知る | 年齢が上がるほどC1の合格ラインは上昇。「40代で月給S$10,000」は日本では高水準だが、シンガポールのEP審査では10点すら取れない場合がある。自分の年齢帯のセクター別ベンチマークを確認 |
| 3 | 「企業側のポイント」を把握しているエージェントを選ぶ | C3(多様性)とC4(地元雇用)の点数は候補者側からは絶対に見えない。「この会社は日本人が多すぎてポイントが足りない」といった情報は、企業と密に連携しているエージェントしか持っていない |
| 4 | 学歴検証を事前に完了させる | 2026年1月以降、全EP申請で学歴の独立検証が必須。MOM認定の検証会社(Avvanz、Verity Intelligence等)を通じた証明が必要で、処理に2〜4週間かかる。内定前から準備可能 |
まとめ
シンガポールEPビザのCOMPASS制度について、2026年最新の情報を整理します。
- EPは2段階審査 ── Stage 1:最低月給S$5,600(金融はS$6,200)のクリア → Stage 2:COMPASSで40ポイント以上
- COMPASSは6項目 ── C1給与・C2学歴・C3多様性・C4地元雇用の基礎4項目+C5 SOL・C6 SEPのボーナス2項目
- C1の給与ベンチマークは毎年更新 ── 2026年1月に新基準適用。前年比平均5%上昇。セクター・年齢帯別に細かく設定
- C2のトップ校リストも2026年1月更新 ── 旧帝大・早慶・東京科学大学(旧東工大)が20ポイント。学位相当の専門資格リストも拡充
- 日本人の4つの合格パターン ── ①高学歴(C2で稼ぐ)②高年収(C1で稼ぐ)③外資・ローカル企業(C3で稼ぐ)④SOL活用(C5ボーナスで稼ぐ)
- 「どの企業に応募するか」が最重要判断 ── C3・C4は候補者からは見えない。エージェントの情報力が合否を左右する
- 学歴検証の必須化 ── 2026年1月以降、全EP申請で第三者検証が必要。2〜4週間かかるため早めの準備を
- COMPASS免除 ── 月給S$22,500以上、企業内異動、短期(1か月以内)のいずれかに該当すればポイント審査不要
COMPASS制度は複雑に見えますが、基準が明確になった分、事前の対策が立てやすくなったとも言えます。ただし、C3(多様性)・C4(地元雇用)など企業側のデータは個人では入手不可能です。自分のキャリアを無駄にしないために、各企業のビザ通過実績を熟知しているエージェントに相談し、精度の高い「ポイント試算」を行うことを強くおすすめします。
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