インドネシアは東南アジア最大の経済大国であり、日系企業の進出先としても人気の高い国です。製造業からIT、サービス業まで多くの日本人がインドネシアで活躍していますが、現地で合法的に働くためには「就労ビザ」と「KITAS(一時滞在許可)」の取得が不可欠です。
しかし、インドネシアのビザ制度は名称や手続きが頻繁に変更されることで知られており、「KITAS」「ITAS」「VITAS」「RPTKA」「Notifikasi」など聞き慣れない略語が飛び交います。制度が複雑なだけに、正確な情報を押さえておかないと手続きが遅延したり、最悪の場合は不法就労とみなされるリスクもあります。
本記事では、2026年時点の最新情報に基づき、インドネシアの就労ビザとKITASの基本から取得条件、申請手続き、必要書類、費用、そして最新のデジタル化動向までを網羅的に解説します。これからインドネシアで働くことを検討している方はもちろん、すでに現地にいる方の更新手続きの参考にもなるはずです。
目次
KITASとは? ─ KITAS/ITASの基本定義

KITAS(Kartu Izin Tinggal Terbatas)とは、インドネシアの「一時滞在許可証」のことです。正式名称のうち「K」は「Kartu(カード)」を意味し、文字通りカード型の許可証として発行されていました。しかし、現在ではカード型の許可証は廃止され、オンラインシステムを通じてPDF形式で交付される電子許可証「ITAS(Izin Tinggal Terbatas)」に移行しています。
つまり、KITASとITASは本質的に同じ「一時滞在許可」を指しますが、カード型がKITAS、電子型がITASという違いがあります。現在の正式名称はITASですが、実務の現場では依然として「KITAS」という呼称が広く使われています。本記事でも、一般的な認知度を考慮して「KITAS」という表現を併用します。
KITAS(ITAS)は、就労、投資、家族帯同、留学、リタイアメントなどさまざまな目的でインドネシアに一時的に居住する外国人に対して発行されます。就労を目的とする場合は、後述する就労ビザ(VITAS)と組み合わせて取得することになります。
就労ビザとKITASの関係を整理

インドネシアのビザ制度を理解するうえで、多くの方が混乱するのが「ビザ」と「滞在許可」の違いです。この2つは役割が異なる別々の許可であり、就労するためには両方が必要です。
VITAS(暫定居住ビザ)とは
VITAS(Visa Izin Tinggal Terbatas)は、インドネシアへの「入国を許可する」査証です。日本語では「暫定居住ビザ」や「一時滞在ビザ」と訳されます。就労目的の場合、このVITASのインデックス番号がE23〜E25に分類されます。VITASは入国のためのビザであり、有効期間は発行日から3か月以内にインドネシアに入国する必要があります。
ITAS(一時滞在許可)とは
ITAS(Izin Tinggal Terbatas)は、インドネシア国内に「滞在することを許可する」許可証です。VITASを取得してインドネシアに入国した後、入国管理局においてITASが交付されます。就労目的のITASの有効期間は180日、1年、または2年から選択でき、この期間中はインドネシアで合法的に滞在し就労することが認められます。
整理すると、就労ビザ(VITAS)が「インドネシアに入国するための許可」であり、KITAS(ITAS)が「インドネシアに滞在するための許可」です。さらに、期間中の出入国を自由に行うためには、MERP(Multiple Exit/Re-Entry Permit:数次出国再入国許可)も併せて取得します。MERPはITAS申請時に同時に付与されるため、別途の申請は不要です。
就労ビザの種類(インデックス番号)

インドネシアの就労ビザは、職種や活動内容に応じてインデックス番号で細かく分類されています。以前は「C312」という単一のインデックスが使用されていましたが、現在はE23〜E25に変更され、さらにそれぞれの中でサブカテゴリに細分化されています。
| インデックス | 対象 | 主な職種例 |
| E23 | 一般的な就労(専門職・管理職) | 製造業マネージャー、営業責任者、経理部長、工場長など |
| E24 | IT・デジタル関連の就労 | ITエンジニア、システム開発者、デジタルマーケティングなど |
| E25 | その他の特定業務 | 研究者、教育関連、特殊技能を要する技術者など |
就労ビザのインデックスを間違えると罰則の対象となるため、自分の職務内容に合った正しいインデックスを選択することが極めて重要です。インデックスの判断に迷う場合は、現地の専門エージェントや法律事務所に相談することをおすすめします。
KITASの取得条件
個人(外国人労働者)側の条件
インドネシアで就労ビザを取得するためには、外国人労働者本人にも一定の要件が求められます。基本的な条件として、大学卒業以上の学歴に加え、申請する職種に関連する5年以上の実務経験が必要です。この「5年以上の職歴」は退職証明書や在籍証明書で証明する必要があります。
ただし、上記の条件を満たさない場合でも、180日(6か月)の短期就労ビザであれば取得できる場合があります。この場合、1年以上のビザとは異なり更新はできず、期限が来るたびに新規申請が必要となる点に注意が必要です。
なお、職務内容に関連する専門性やスキルを持っていることも重視されます。インドネシア政府は、外国人労働者の雇用を「インドネシア人が担えない専門職・管理職」に限定する方針を取っているため、単純労働での就労ビザ取得はできません。
企業(雇用主)側の条件
就労ビザの申請は、外国人個人ではなく雇用主であるインドネシアの企業が主体となって行います。企業側に求められる主な条件は以下のとおりです。
- インドネシアで合法的に登録された法人であること(NIB:事業基本番号を保有)
- 外国人従業員雇用計画書(RPTKA)を労働省に提出し、承認を得ていること
- 技術移転のためのインドネシア人従業員(付き添い者)を指名し、教育訓練計画を策定していること
- 外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)を前払いで納付していること
インドネシア政府は外国人雇用を通じた「インドネシア人への技術移転」を重視しており、企業は外国人労働者のスキルを現地従業員に引き継ぐ計画を明示する義務があります。
申請手続きの流れ

インドネシアの就労ビザとKITAS(ITAS)の取得には、複数のステップを経る必要があります。手続きの主体は原則として雇用主である企業側です。以下の4つのステップで進みます。
ステップ1:RPTKA(外国人従業員雇用計画書)の提出・承認
企業はまず、外国人従業員雇用計画書(RPTKA: Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing)をオンラインシステム「TKA Online」を通じて労働移住省に提出します。RPTKAには、外国人労働者の役職、職務内容、雇用期間、給与水準、勤務地、組織図、インドネシア人従業員への教育訓練計画などを記載します。
提出後、労働省からSkypeを通じたインタビューが行われます。このインタビューでは、企業に所属するインドネシア人従業員が人事担当者として回答します。審査を通過すると、RPTKAの承認決定書が発行されます。RPTKAの有効期間は通常1〜2年です。
ステップ2:Notifikasi(就労許可通知)の取得とDKP-TKAの納付
RPTKAの承認後、企業は外国人労働許可通知書(Notifikasi)の申請を行います。この段階で、外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)の請求書が発行されます。企業はDKP-TKAとして、外国人労働者1名につき1か月あたり100米ドルを全就労期間分まとめて前払いします。納付が確認されると、Notifikasiが正式に発行され、このデータが労働省のシステムから入国管理総局へ自動的に送信されます。
ステップ3:eVISA(電子ビザ)の発給
Notifikasiのデータを受け取った入国管理総局は、雇用主に対してビザ申請手数料の納付を指示します。納付が確認されると、指名手配リストや外国人のバックグラウンド審査が行われ、問題がなければeVISA(電子ビザ)が発行されます。eVISAは雇用主のメールに送付されるので、外国人労働者はこれをプリントアウトして携行し、インドネシアに入国します。eVISAの有効期間は発行から3か月以内です。
ステップ4:ITAS(一時滞在許可)の取得
eVISAを使用してインドネシアに入国した後、入国管理局でITASが交付されます。2025年6月以降、ITASの不正使用や虚偽申請の増加を背景に、入国管理局での面接と指紋押捺が再度義務化されました。入国後、通常は数日〜2週間程度でITAS ELEKTRONIKがPDFファイルとしてメールで届きます。届かない場合は、地域の入国管理局に出頭してITAS申請手続きを行う必要があります。
必要書類一覧

就労ビザとKITAS(ITAS)の申請に必要な書類は、個人(外国人労働者)側と企業側に分かれます。以下にそれぞれの主要書類をまとめます。
個人(外国人労働者)の必要書類
| 書類名 | 備考 |
| パスポート原本 | 残存有効期間18か月以上を推奨 |
| パスポートサイズの証明写真 | 背景赤、4cm × 6cm |
| 英文履歴書(CV) | 職務内容・スキルを明記 |
| 最終学歴の卒業証明書 | 英訳・公証(アポスティーユ)が必要 |
| 退職証明書または在籍証明書 | 5年以上の職歴を証明するもの |
| 健康診断書 | 場合により現地での検査も必要 |
企業(雇用主)の必要書類
| 書類名 | 備考 |
| 会社の設立証書(Akta Pendirian) | 公証人の認証済みのもの |
| 事業基本番号(NIB) | OSSシステムで取得済みであること |
| 会社組織図 | 外国人の配置ポジションを明示 |
| RPTKA承認書 | 労働省からの承認済み文書 |
| DKP-TKA納付証明書 | SIMPONI経由の支払い済み証明 |
| インドネシア人付き添い者の指名書 | 技術移転対象者を指名する書面 |
| 労働報告義務証明(Wajib Lapor) | 有効期限内であること |
費用の目安
インドネシアの就労ビザとKITAS取得にかかる費用は、政府への手数料、補償金、翻訳・認証費用など多岐にわたります。以下は2026年時点の目安です。
| 費用項目 | 金額(目安) | 備考 |
| DKP-TKA(外国人雇用補償金) | 100米ドル/月(1年=1,200米ドル) | 企業負担。全期間分を前払い |
| ビザ申請手数料(eVISA) | 約200〜400万ルピア | 期間やカテゴリにより変動 |
| ITAS発行手数料 | 約200〜300万ルピア | 期間により異なる |
| MERP(数次出入国許可) | 約100〜200万ルピア | ITAS申請時に同時取得 |
| 卒業証明書の翻訳・公証 | 約1〜3万円 | アポスティーユ含む |
| ビザエージェント手数料 | 約500〜2,000米ドル | エージェントにより大きく異なる |
上記の費用は原則として企業負担となりますが、現地採用の場合は一部を個人負担とする企業もあります。また、インドネシアのビザ手続きは煩雑で頻繁に変更があるため、多くの企業がビザエージェントを利用しています。エージェント費用は500〜2,000米ドル程度が一般的ですが、サービス内容や対応範囲によって大きく異なります。
有効期間と更新
就労目的のITASの有効期間は、180日(6か月)、1年、2年の3つから選択できます。どの期間を選ぶかは、職種や雇用契約の内容によって異なります。
| 有効期間 | 特徴 | 更新 |
| 180日(6か月) | 学歴・職歴条件を満たさない場合に選択可能 | 更新不可。期限ごとに新規申請が必要 |
| 1年 | 最も一般的な選択肢。多くの企業がこの期間で申請 | 現地で更新可能。RPTKAの再確認が必要な場合あり |
| 2年 | 取締役、コミサリスなど上位役職者向け | 現地で更新可能。延長も認められる |
ITASの更新(延長)は、有効期限が切れる前に手続きを行う必要があります。更新時にはスポンサー企業が再度関与し、雇用契約の継続やRPTKAの再確認が求められる場合があります。180日のビザは更新ができないため、期限が切れるたびに新規で全プロセスをやり直す必要がある点に特に注意してください。
なお、ITASの有効期間は最大で連続5年まで更新が可能です。5年を超えて滞在を続ける場合は、ITAP(永住許可:Izin Tinggal Tetap)への切り替えを検討することになります。ITAPは5年間有効で、条件が満たされれば無期限に延長可能です。
退職・離任時の手続き
インドネシアでの就労を終え、本帰国や転職をする場合には、EPO(Exit Permit Only)と呼ばれるKITASのキャンセル手続きが必要です。これは非常に重要な手続きであり、怠ると将来のビザ申請に悪影響を及ぼす可能性があります。
EPOの手続き
KITAS保持者が本帰国する場合や、転職などでスポンサー企業が変わる場合は、管轄地域の入国管理局にて現在保有しているKITASのEPO処理を行います。具体的には、パスポートやKITAS関連のイミグレーション書類をすべて返却します。
EPO処理が完了すると、パスポートに「Return of Immigration Document」というスタンプが押されます。このスタンプに記載された日付から7日以内にインドネシアを出国しなければなりません。この期限は厳格に適用されるため、出国スケジュールを事前に調整しておく必要があります。
EPOをしないリスク
EPOをせずにKITASを持ったまま帰国してしまうケースが散見されますが、これには大きなリスクがあります。次に新しい就労ビザを申請する際に「まだKITAS保有者である」と指摘され、手続きが進められないことがあるためです。転職の可能性がある方は、確実にEPO手続きを完了させましょう。
2026年の最新動向

インドネシアのビザ制度は近年、急速なデジタル化が進んでいます。2026年時点での主な最新動向を押さえておきましょう。
eVISAの全面導入
2024年に導入されたeVISAシステムにより、就労ビザの申請・発給がオンラインで完結するようになりました。以前は在外公館に出向いてパスポートにステッカーを貼付する必要がありましたが、現在はその手続きが不要になっています。
All Indonesia(電子入国カード)の導入
2025年10月より、インドネシアへの入国に際して「All Indonesia」(allindonesia.imigrasi.go.id)という電子システムでの事前登録が義務化されました。到着カード、税関申告、健康検疫申告が1つのプラットフォームに統合されており、すべての入国者は到着72時間前までに提出する必要があります。就労ビザ保持者も例外ではありません。
面接・指紋押捺の再義務化
2025年6月以降、ITASの不正使用や虚偽申請の増加を受け、入国管理局での面接と指紋押捺が再度義務化されました。eVISAで入国手続きが簡素化された一方で、ITAS取得のプロセスは以前よりも厳格になっている面もあります。
RPTKA手続きの透明化
2025年に発覚した労働省職員による贈収賄事件を受け、RPTKA手続きの透明化が進められています。TKA Onlineシステムの機能強化が行われ、申請の進捗状況がリアルタイムで確認できるようになるなど、不正防止に向けた制度改善が継続されています。
まとめ

インドネシアの就労ビザ(KITAS/ITAS)の取得は、RPTKAの承認からNotifikasi、eVISA、ITASまで複数のステップを経る複雑なプロセスです。しかし、各ステップの役割と必要書類を正しく理解しておけば、手続きをスムーズに進めることができます。
ポイントを振り返ると、KITASとITASは同じ「一時滞在許可」を指すこと、就労ビザ(VITAS)と滞在許可(ITAS)は別の許可であること、大学卒以上の学歴と5年以上の実務経験が基本条件であること、そしてDKP-TKAの前払い納付が必須であることが重要です。
2026年現在、eVISAやAll Indonesiaなどデジタル化が進む一方で、面接・指紋押捺の再義務化など厳格化も進んでいます。制度変更が頻繁に行われるインドネシアでは、最新情報を常にキャッチアップし、信頼できるビザエージェントを活用することが成功の鍵です。
インドネシアへの転職を本格的に検討している方は、まずは現地の求人状況やビザサポートの有無を転職エージェントに相談することをおすすめします。
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